朝顔の咲きそめる夏――山下さんのこと。(7)

朝顔の咲きそめる夏――山下さんのこと。(7)

滞在中のこと

山下さんは滞在中の前半、ジョアンさんと会うことができないので、私は最初はカレントルームでのワークが望ましいと判断し、それを奨めました。

この時期、ジョアンさんの不在を穴埋めするかのようにエンティティーが頑張り、カレントルームのエネルギーが強くなっていたのは確かなので、体の弱っている山下さんがエネルギー当たりを起こさないか、1回目のカレントだけは心配していました。しかし、大丈夫なようでしたので、それからもカレントを中心にやっていく方針としました。

山下さんはカレントルーム、祝福された滝、ラインのセッション、自発的な手術とカーザのワークを黙々とこなしていきました。スープボランティアにも参加されました。

食事の時はツアーメンバー用に用意された大きな長テーブルとは別のテーブルに一人で座り、大きなお皿にたくさんの食べ物をのせてきて、一心不乱に口に運び、終わると、さっさと自分の部屋に帰っていきます。

他のツアーメンバーと話すこともほとんどありません。他のメンバーもあまり話をしたがりませんでした。

山下さんはやはり村に来てからずっと眠いようで、寝てばかりいました。

私自身はなかなか動き出さない山下さんのチャクラをときどき拝見しては、どうしたものか、と思っていたように思います。もちろん、エンティティーのやることには間違いがないので、信じてはいました。

不思議な出来事

そんな中、山下さんと滝にご一緒したとき、1つだけ不思議な出来事がありました。

そのときはツアーメンバー三人で滝に行きました。山下さんと私、もう一人は現代医療の医師で、大きな病院の院長をやっておられる方です(仮に「桐谷さん」と呼びます)。滝まではみんなで歩くことになりました。滝に行くときの心構えですが、行きも帰りも無言で、「行き」は自分の意図に集中し、「帰り」はすべてを手放す気持ちで歩きます。やはり「行(ぎょう)」のようなものと考えると良いかも知れません。

滝への門をくぐると道は舗装されていない赤土で、かどの残ったゴロゴロした石も結構落ちていて、決して歩きやすくはありません。滝は標高としてカーザから2、300メートルほど下にあるので、降りていく感覚ですが、道はゆるやかな上り下りを繰り返します。滝の水は結構冷たいので行くのは午後からにしたのですが、この地域は昼前くらいから急に気温があがります。

歩くとすぐに汗が出てきました。アバジャーニアの陽射しは強く透明で体の中まで刺し照らすような気がします。たまにカーザのタクシーが赤土特有の細かい砂を煙幕のように巻き上げながら、我々を追い越していきます。道の両側は油絵の具で描いたような南米の生々しい緑でいっぱいです。カシューナッツの赤い実の実物を初めて見て関心したのも、この道でのことです。ときどき左側の視界が開け、緑のビロードのような、起伏の穏やかな丘陵が姿を現します。自分の意図に集中しているはずが、美しくてしばしば目を奪われてしまいます。

お二人が並んで先に歩いています。

山下さんのオーラは最初に拝見したときより少しだけ大きく、そしてクリアーになっているのが判ってうれしくなりました。アバジャーニアの樹木が映り込んだかのような緑色のきれいなオーラでした。緑色のオーラを持つ人は一般に自然や人との調和を第一とするおだやかな性格の方が多いと言われます。友人たち、家族・親族等と親密な関係性があることが人生の満足度となるといっても過言ではありません。また、緑色の人は、人と話をするのが好きでそれが御自身の癒やしにもなります。そういう意味でもへその手術以来、山下さんに起こったことを想像すると本当に気の毒に思えてなりませんでした。

桐谷さんはお医者さんらしい、知性を表す青で、緑と青のオーラが並んでゆらゆらとしている様をずっと見ていたような気がします。

―――――…

20分ほど歩くと、視界が開けて、そこは広場になっています。端の方には屋根付きのベンチがあり、タクシーできた人はここで約束した帰りのタクシーを待ったりします。そして改めて滝への入り口があり、そこから入ってまたロープを両脇に張った狭い急な坂を降りていくとコンクリートブロックで出来た順番まちの場所があります。

ここにはかんぬきの付いたゲートがあり、いったんはここで待たなければなりません。男性と女性はエンティティーに特別に許可された人たち以外は一緒に入っていくことが出来ないので、男性と女性は交互にまとまって入っていきます。滝はゲートを入ってさらに坂を降りていった先にあります。

順番待ちの人たちがけっこういたように思います。

無言で我々の番が来るのを待ちました。30分ほど待って、いままで滝にいた女性たちが一人二人と戻ってきました。女性全員が戻ってきたのを確認するまでは絶対に入れません。やっと男性のグループが入る順番がやってきたので他の外国人たちと一緒に坂を下りて、まず道端にあるベンチで着替えました。山下さんと桐谷さんは先に滝に降りていきました。私は色々とパワーストーンをポケットに入れていて、それを取り出したりしているうちに着替えが遅くなりました。

そして滝に降りていき、列の最後尾に付きました。男性グループは滝を順番に浴びて、来た坂をまた登って戻っていきます。考えてみれば、一番最後なのですこしゆっくり滝を浴びようと思い、このときは水柱を長く頭頂部に受けていました。

今回のカーザはカレントのエネルギーもすごいですが、滝のエネルギーも強烈でした。肌にぶつかる滝の水は「水ではないなにか」でした。水しぶきが蜃気楼のようにぼやけてみえました。すると現実感が無くなってくるのがわかりました。これが続くと自分がどこにいるのかわからなくなることがあるので、適当に切り上げて戻りました。

着替えの場所にはもうだれもいませんでした。二人はたぶん、コンクリートブロックのところで待っていてくれているのでしょう――急いで服を着てもどりましたが、外国人が何人かいるだけで二人は居ませんでした。ここにいないということは、上の広場のベンチで待っているのかもしれません。上がってみましたが、そこにもだれもいませんでした。遅かったのでどうやら痺れを切らして置いて行かれてしまったようです。

―――――…

一人でもと来た道をもどりました。置いて行かれたのはちょっとだけショックでしたが、ここで起こることはすべて必然です。ぼーっとして歩きました。そのままポウザアダに戻ると自分の部屋で仕事をしていました。

30分位経ったでしょうか。大きなノックの音がしました。ドアを開けると山下さんでした。外に出ると桐谷さんの姿もみえます。

「森さん どうしたんですか!! なんでここにいるんですか!!」と山下さん。

「なんでって――皆さん、もういなかったので、帰ってきたんですけど」

「おれら 森さんのこと 待ってたんですよ」

「ええ~?」

山下さんたちは上の広場のベンチで私があがってくるのを待っていた、とのこと。そしてなかなか上がってこないので、もう一度コンクリートブロックのところに行って探したとのこと。私が滝でどうにかなったかも知れないと思い、滝から戻ってくる外国人の様子も見ていたとのこと。

私はコンクリートブロックのところも広場のベンチもよく見ました。どこも見通しの良い場所で、人が居たらすぐに判りますし、滝の道は一本道で、姿を見ずにすれ違うことはできません。ただ、私はその間、変性意識の状態だったことは確かです。それにしても相手も探していたわけですから、見落とすことはないように思います。

このことはいまだによく理解できません。

(8)へつづく