朝顔の咲きそめる夏――山下さんのこと。(8)
村を去る日
山下さん以外のメンバー全員が村を去る日がやってきました。
我々の泊まっていたポウザアダはジョアンさんがニューヨークセッションで村にいない時期にあわせて、大掃除と模様替えのため一週間閉鎖されることになっていました。それで山下さんはカーザ近くの一軒家(シェアハウス)にその間、滞在することになります。
出発は慌ただしくなりました。
というのもツアーメンバーの一人の方が最後の昼食時に喉に肉を詰まらせるという事件が起きたからです。詳細はこの記事の趣旨に沿わないので省きますが、ポウザアダからの出発時刻が午後2時で、その前に最後の滝に行ったり(アルメイダ医師への最後のお願いと滞在中のお礼を伝える意味です)、他のポウザアダに泊まっている日系の方にあいさつしたりで時間が押していました。
昼食が1時にくらいになって、出発の準備もあって、と慌ただしく食事をしていたときに、起きた事件でした。
その方は塊の牛肉を大きなまま飲み込んでしまったようで、それは食道に詰まり、息は出来るのですがツバも飲み込めないような状態になってしまいました。その時点では喉が苦しいというだけでまだ大丈夫ですが、何も飲み込めないということは放っておくと脱水症状になります。帰りの30時間ものフライトで何かあったら大変です。帰りの観光用に用意したバンでそのままブラジリアの病院に行くことになりました。ブラジリアの病院では、有名な病院にも関わらず、ブラジル人の気質からか、うまく回っておらず、必要の無い検査があったり、担当できる医師が見つからなくて他の病院へとたらい回しに合ったりするのですが、それはまた別の話です。
というわけで山下さんとはろくにお別れのあいさつもしなかったように思います。
通信
日本に戻ってからはメールとSkypeを使って、その後の様子をお伺いしました。
山下さんは外国語が苦手なので、移った先ではiPhoneのアプリとメモでなんとかしのいでいたようです。そこの家にはかわいい猫が二匹いるそうで「猫とじゃれ合っています」という微笑ましいメールも戻ってきていました。
ジョアンさんがカーザに戻ってからのこと、目に見えない手術は二回受けることになりました。当初の予定では肉体の手術を希望されていたのですが、それはやめることにした、と後に伺いました。
そして10月の中旬、山下さんは無事、日本に戻ってきました。
以下は山下さんからの帰国を告げるメールです。
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森さん 山下です。さっき6時半頃 大阪 着きました。いやぁー ブラジリア出るとき 朝早く 起こしちゃって 申し訳なかったですね。なんとか かえってこれました。森さんに ありがとう ありがとうと なんべんいったかわからんけど ほんまに ありがとうございました。
(原文のまま――名前だけ仮名に変更)
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(9)最終回へつづく