朝顔の咲きそめる夏――山下さんのこと。(9)最終回
再会
それから山下さんからはたびたびメールを頂きました。質問内容は帰国後の過ごし方のこと、ハーブの飲み方や注意点といったことで、とても慎重にカーザのプロトコルを守ることで自分の体をケアされていることが判りました。
そして今年(2016年)の1月に一度電話でお話をしたのですが、仕事の関係でいま山形に滞在している、そして仕事は3月末で終わるとのことで、4月の頭に私の地元福島で会う約束をしました。
福島駅の駐車場で待ち合わせをして、行きつけのおそば屋さんで話をしました。
最初から笑顔だったような気がします。なにか9月のときとは別人のようです。
以下、そのときの話をまとめてみました。
…………………………………………………………
昨年9月のツアーのことですが、ジョアンさんのところに行くだけ行って治らなかったら治らなかったで構わない、と思っていました。
「つらさ」から死ぬことを考えたことは?という質問に対しては、
――「死にたい」だけはなかったです。死んだほうが楽は楽だったと思います。でもなぜか生き抜かないといけない、という気持ちがありました。このことは自分にとって試練に思えました。この世に生まれたのは修行のようなものと考えています。神様に与えられた試練だと思って乗り切ろうと思いました。
それは死についての恐れからではなかったです。むしろ死ぬことは楽しみというか、我々はただ身体を借りているだけと思っていますので。
そして出来るところまでやって死んだら死んだでしょうがない、それで死んだら寿命だと考えることにしました。
最初、身体は動かなくなっていきました。
身体は少し動くと息が切れてしまうし、考えることもままならないので本当に大変でした。こんな状態で出来る仕事も限られていましたので、仕事は選べませんでしたが、なんとか、のらりくらり、かわしていました。人からは、ぐうたらだ、もっとてきぱき動けと厳しいことを言われたりしました。自分では一生懸命、動いているつもりでも動けていなかったのでしょうね。だいたい手術前、全盛期の10分の1くらいの運動量に下がっていたような気がします。
でも一生懸命、つよがって、というか、自分を奮い立たせていたように思います。そして「為になる言葉」を集めていきました。中村天風(なかむら てんぷう)さんの本とかも読みました。
カーザにいる間はツアーメンバーの中に入っていくことはしませんでした。大勢の場所で迷惑になるのではないかと思ってましたので。これまでの経験から、他の人が自分のことをどう扱っていいのか判らなくなる、ということがあるので遠慮していました。
それからカーザにいるあいだはずっと弱音を吐きたくなくて、人と話をしなかったということもあります。口を開くとそういう言葉になってしまいますので。帰ってきた今なら、その弱音も言えます。
一番変わったのは人との関係が良くなったことでしょうか。笑えるようになって、顔が強ばっていたのも次第に弱まっていきました。
もちろん「祝福された水」はずっと飲んでいます。よく眠れるようになりました。以前の眠りが戻ってきたように思います。この水のおかげのような気がしています。
体力も付いて、あまり疲れなくなりました。これまでと仕事の仕方も違ってきています。今度、新しい資格に挑戦しようと勉強しているところです。
それから私は朝、結跏趺坐(けっかふざ)で座禅するのですが、以前は全くバランスが取れなかったのですが、それがぴたっときまるというか、きれいに組めて、がたつくことがなくなりました。これには驚いています。
鼻の呼吸はいまはあまり変わっていません。これも徐々に治っていったら良いな、と思っています。
へその手術のことですが、見た目のことだけでメスを入れるような場所ではないでしょう。自然ままが一番のような気がします。
カーザで貰ってきたハーブは3月末でちょうど無くなりました。長いこと辛いものやアルコールがだめだったので、これから少し欲求不満を晴らしたいと思ってます。でもまた5月には写真提出をして、ハーブを続けることでカーザのエネルギーとの繋がりは持ち続けたいと思っています。
カーザにはまた行きたいと思っています。あと1、2回は行かなければならないような気がしています。
最近、温泉に目覚めたんですよ。ほんと楽しいですね。温泉があんなに良いものだとは、思いませんでした。
……………………………………………………
店内のほの暗い灯りの中で、あらためて山下さんのチャクラを拝見することができました。
体の中にめり込んでいるように視えた黒いチャクラが開いています。いまはまだ小さなチャクラですが体表より前に出て、均等な大きさで動いています。透明感が出て、チャクラ固有の色をわずかに帯び始めました。
優しい色の花々――。
孤独と塗炭の苦しみの末に咲いた一分咲きの朝顔です。
人と人をつなぐ花です。
いつか満開になるその日まで、エンティティーという名の花守りはきっと見守り続けてくれることでしょう。
朝顔の咲きそめる夏――山下さんのこと。(了)
スープボランティアに参加し、人参をむく山下さん